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読む 木づかいインタビュー

池 龍昇さん

山で育ち、森を見ている職人社長の本音

国産材を使うことがなぜ大事なのか、伝えたい。
高知県・四万十川流域のヒノキを「四万十ひのき」と名付けたのは、池龍昇氏。 四万十ひのきを知り尽くし、アイデア豊かな製品をつくりだす企業「土佐龍」を育て上げた職人社長です。 ふだんは山にいるという池氏の言葉の端々から、木を慈しむ心、森林や国産材に対する熱い思いが伝わってきます。

土佐龍

森林の手入れに駆り出された子どものころ。その経験から、木でモノをつくる仕事に。

土佐龍

「高知県は日本一の森林県で、面積の84%が森林です。私の身近なところも山また山で、森林がたくさんありました。実は、子どものころは森林に対していい思いは持っていなかったんですよ。私の祖父が山持ちでしてね。友達はみんな遊んでいるのに、自分は山の手入れに駆り出される。いやでしたね。
 けれど、やはり山の経験がからだにしみついていたんでしょう。大学に行くか経営者になるか迷った末に、経営者への道を選んで、大阪の商社に勤めました。そして宮城県の鳴子に行った時に、こけしづくりの現場を見たんです。ろくろを回して木を成型する様子に、とても感動した。何か事業を起こしたいと思っていましたし、彫刻や絵が趣味だったので、“これだ!”と……。どうせやるなら地元がいいだろうと高知に戻って、クスノキを素材に彫刻でおみやげ品をつくり始めました。26歳の時のことです。よく売れたんですよ。そうして約10年続けた後、おみやげ品から家庭用品へと転向したんです。
 高知県は何と言っても日本一のヒノキの産地です。丈夫で抗菌作用が長続きする優れた素材が自分の足元にある。これを生かしたいと思いました」



手入れの行き届いた健全な森林へ向けて。木に感謝し、間伐材も端材もすべて使います。

土佐龍

「生活は洋風になっているのに、従来の家庭用品はほとんどが和のものでした。これはおかしいなあと思って、現代の生活様式に合ったデザインをしようと考えたんです。自分から材料となる木がある山に入っていったところ、いろいろなことがよく見えてきました。
 山の手入れがきちんとされていなかったんです。間伐材は安いので採算が合わないため、放置されていました。しかし、森林が健全であるために、間伐や除伐は必要です。それは、子どものころの経験でよく知っています。昔取った杵柄ですね。それならば、間伐材を使おうと決めました。
 間伐材を使えば、そのお金が山に還る。そして間伐に手が回るようになる。また、その間伐材を使う。お金が山に還る……。循環していくんです。そして、森林が生き返り、元気になります。
 単に間伐材を使うだけではなく、製造過程で出た副産物や端材も決して捨てません。枝や葉も活用します。酸素や水を育んでくれた木に心から感謝して、無駄なく丁寧に使います」



地球が温暖化している今、やらなければならないのは、国産材を使うことです。

土佐龍

「戦後はスギやヒノキなどの人工植林が盛んに行われました。しかし、採算が合わないなどの経済的理由から、手入れが滞るようになった。遠目に見ればきれいな森林でも、手入れされていないところは多いんですよ。
 私はね、CO2増加による地球温暖化、花粉症やぜんそく、アレルギーの問題などが出てきているのは、無理な形で自然破壊をしてきたからであって、このままにしておけば生態系に影響が出たり、もっと大変なことになりますよ、という警告の段階だと思うんです。

 木は何億年にも渡って炭素を貯めてきました。地球が温暖化している今、炭素を吸収する木の存在は本当に大きいし期待できます。だからこそ、調和のとれた健全な山づくり、森林づくりのために今、やらなければいけないことがある。国や関係者には、熱く語ってもっと広くPRしてもらいたいですね。そして一番必要なことは、みんなが山へ目を向けて、自然の中で育まれたものを使うことです。
 モノはそれを生かす人に集まる。生かすことによって人も生かされる。私は木と関わってきて、本当に幸せだと思います。だから、国産材のよさと、国産材をできるだけ使うことが大切だということを、ひとりでも多くの人に理解してもらいたい。私はそのためのメッセンジャーなんです。
 安ければいいというのではなく、本当にいい国産材をみんなで使いましょう!と、皆さんにお伝えしたいですね」


池 龍昇さん

President


株式会社土佐龍 代表取締役社長
池 龍昇
Ryusho ike

高知県生まれ。「土佐龍」は“木の個性を生かす、価値あるものづくり”を基本に、プロダクトデザイナーや熟練した職人、スタッフが協力し、さまざまなプロダクツを生み出している。サンキューグリーンスタイルの認証を取得。アメリカ、ヨーロッパ、香港などへの販路拡大を通じて、日本には優秀な木があることをアピールしている。